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対話シリーズNo.3 ソクラテス(2)

更新日:2022年8月24日

(リュシッポス作)


 ソクラテスは、正義、美、善と言った目に見えない価値や真理に触れるのは、魂が純粋に思考を働かせるときだと言います(『パイドン』65)。ところが、食欲も含め、あらゆる肉体の欲求や、見る、聞くなどの体験的五感は、魂をあざむいて、真理を把握するための思考を阻害すると考えました。そこで、ソクラテスは次のように語りました。


哲学者の魂は肉体を最高度に侮蔑し、肉体から逃亡し、まったく自分自身だけ(魂、とくに知性のこと、筆者注)に成ろうと努力する(同書65D)


できるだけ肉体と交わらず共有もせず、肉体の本性に汚染されずに、肉体から清浄な状態になって、神ご自身がわれわれを解放する時(死のこと、筆者注)を待つのである。(同書67A)


つまりソクラテスは、


自分の霊魂の働き、特に知性と思考だけが純粋で清く、それ以外のすべてが汚染されていて、さげすむべきものであり、それは真理の把握をはばむ


と見ています。ですから、生きている限り、肉体の影響から離れるよう努力すべきだとして、極端に見える禁欲的な生活を送ります。それでも限界があるので、死ぬことによって肉体から完全に解放され、そしてはじめて、真理に至るというのです。


また、ソクラテス自身は、より良き共同体形成に思いはあったのですが、彼の思想と生き方は、「自分は誰にどう思われても、すべてを捨てて徹底的に真理を求めて生きる」という、個人主義的人間像の理想にもなりました。


ソクラテス、そして弟子プラトンの思想は、西洋社会と教会に大きな影響を及ぼしていきます。確かにギリシアの思想は多くの貢献をもたらしましたが、同時に、西洋に特徴的な知性偏重と個人主義の基盤を作ったと言われています。また、霊肉二元論と霊魂不滅、禁欲主義、肉体と目に見える世界への蔑視と天国志向、などを西洋社会と教会に与えることとなりました。


(付記:初期の教会はプラトン主義を多神教的で異教的と見ていたのですが、プロティノスがプラトン主義をキリスト教に受け入れやすいものに変化させた結果〔新プラトン主義]、それはアウグスティヌスを通して教会に入って行きます。また、新プラトン主義は、ルネサンス>フィチーノ>ルネサンス・新プラトン主義>ウマニストというルートをとおって改革者に受け入れられ、カトリックよりもプロテスタントのほうにより強い影響を与えて行きます。この流れは、このシリーズでは取り上げません。)


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