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聖書シリーズ(4)−聖書と言葉(翻訳聖書)

(以前「私の霊感論」として書いたものの一部です)

ラテン語ウルガタ聖書
ラテン語ウルガタ聖書

初め

 以前私は日本聖書協会という超教派の団体で働き、聖書翻訳事業に関わっていました。そのとき、私は次の疑問を持つようになりました。


イスラム教にとっての聖典は、アラビア語であって、翻訳されたものは聖典ではない。ところがキリスト教は、聖書をひたすら現地語に翻訳し、翻訳された書を「神の言葉」としている。これはいったいどうしてなのか。


フィリピンでの体験

 1989年のことです。私たち夫婦と小さな三人の子どもたちは、フィリピンのバタンガス州、バタンガス市にいました。宣教師として語学研修のためにその地に行って間もない頃でした。街を散歩していた時、三歳半だった娘が私の手を振り払って急に走り出しました。往来の激しい通りにまっすぐ向かっています。右から乗合自動車のジプニーが走って来る、その前に飛び出す、と思った瞬間、道路を挟んだ向こう側から娘の名を呼ぶ大きな声がして、娘は驚いて立ち止まる。その鼻先をジプニーが通り過ぎて行きました。

 前日に出会って立ち話しをした青年が、偶然にも通りの反対側にいて、娘の名前がフィリピンにもあるので、それだけを記憶していて咄嗟に叫んだのです。もし、娘に分からない言葉で話しかけられても、娘は飛び出していたかもしれません。人を救うには、分かる言葉でなければなりません。


聖書自体の中で

 それと同様に、愛の神は、人の分かる言葉で救いを語ります。神はアブラハムにアッカド語の古バビロニア方言で語り、モーセには古典エジプト語とアッカド語のアラビア方言のようなもので語ったことでしょう。ダビデ王には南ヘブライ語(標準ヘブライ語)で語り、人となった神はユダヤの民衆にアラム語で語り、そして地中海沿岸の国際都市ではパウロを通してギリシア語で語りました(ロマ5:18-19)。


翻訳聖書を通して

 以上のように、聖書の中だけをみても、神は人に分かる言葉で愛と救いを語っていたことが分かります。そして、もちろん、その後の教会の歴史においても、神は人に分かる言葉で語ってきました。それが翻訳聖書です。


 地中海沿岸の初代教会の人々の共通語は、ギリシア語でしたから、彼らはユダヤ人がギリシア語に訳した旧約聖書(以降「七十人訳聖書」)を聖書として用いました(当時新約聖書はまだ形になっていませんでした)。その後、聖書は、東方ではシリア語、コプト語、アルメニア語、エチオピア語に翻訳されました。西方では、古ラテン語やゴート語などへ訳されましたが、ラテン語訳が中世にかけて唯一の聖書となっていきます。

 しかし、14世紀になると、ウィクリフが英語に訳すことになります。宗教改革前夜と言えるこの時期から、現地語への翻訳のスピードに変化が見られます。15世紀以降の400年間は、100年につき、平均19言語に聖書が訳されていきます。19世紀になりますと、リバイバルと、それに後押しされた世界宣教の熱心さのゆえに、一世紀の間に446言語にもなり、20世紀には驚くべきことに1778言語にも訳されます。過去200年は聖書翻訳の世紀と呼ぶことができるかもしれません。

 21世紀に入り、世界に160ある聖書協会やウィクリフ聖書翻訳協会などの聖書翻訳の団体が世界的に協力して、ますます聖書翻訳が加速しています。その計画によると、あと、数十年で、ほとんどの人が、自分たちの分かる言葉で聖書の一部に触れることができる時代が来ようとしています。


翻訳聖書を用いて

 神は、このように翻訳聖書を用いて人を救いに導いてきました。


 私が日本聖書協会で働いていた頃のことです。ある地方在住の女性が聖書協会に電話をかけてきてこうおっしゃいました。「私は30年前に難病を患い、滅多に家から出られなくなってしまった。その間、新共同訳を読んできているが、洗礼を受けなければならないようだ。家に来てくれる牧師を紹介してほしい」という内容でした。それから、年に二回ほど必ず電話がかかってくるようになりました。お話を聞きますと、自宅で聖書を読むだけで、しっかりと正確な信仰を持っていることが分かりました。そしてこうおっしゃいました。「ヘブライ語とギリシア語だったら私には理解できない。聖書協会が、私に分かる日本語に訳してくれたから、イエス様に出会えた。イエス様がおられたから、この30年、生きてくることができた。感謝する。」


 愛の神は、今に至るまで、愛する人が理解できる言語で、すなわち翻訳聖書を通して、キリストを指し示し、人を救いに導いておられるのです。

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©2021 by 島先克臣

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